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東京地方裁判所 平成2年(ワ)14667号 判決 1992年12月08日

主文

一  原告から、被告経営の東松山カントリークラブゴルフ場に対し、東松山カントリークラブ平日会員権一六口(会員証番号第三四九号ないし第三六四号、額面各金四〇万円)に基づいて、右口数の範囲内(ただし、土曜日は右口数の二分の一の範囲内)で、原告と入会契約を結んだローヤルゴルフ会員(ローヤル法人無記名会員を含み、同会員については原告指定のすべての者を含む。)及び同会員が同伴する非会員(ビジター)について、プレーの三〇日前までに、ファックス送信又は電話により、原告の希望する開始時間帯による右ゴルフ場におけるプレーの申込みをした場合には、毎日曜日、祝日及び振替休日、右ゴルフ場の定休日である毎月曜日を除き、被告は、右申込予約の受付を拒否したり、ローヤルゴルフ会員(法人無記名会員を含み、同会員については原告指定のすべての者を含む。)のプレーについて、ビジター料金の二分の一を超える額のグリーンフィーを請求するなどして、予約者のプレー、その他ゴルフ場施設の利用を妨げてはならない。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

主文同旨

第二  事案の概要等

一  事件の要旨

本件は、原告が、昭和五二年一二月二三日、東京地方裁判所における裁判上の和解において、被告に対し、被告が経営する東松山カントリークラブ(以下「本件カントリークラブ」という。)の東松山ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)において優先的にゴルフ場の利用ができる権利を一六口(土曜日はその二分の一)取得したが、被告が右優先権を否定し、原告が右優先権を行使することを妨害し始めたので、右和解による合意に基づき、右優先権行使の妨害禁止を求めた事案である。

二  争いのない事実等

1  原告は、原告と入会契約をしたローヤルゴルフ会員(以下「ローヤル会員」という。)等に本件ゴルフ場を含む多数のゴルフ場の利用をあつせんしてその手数料を営業収入としている会社である。

被告は、ゴルフ場の経営管理等を目的とする会社である。

2  原告は、被告に対し、昭和四八年五月二四日及び昭和四九年三月一日、原告が本件カントリークラブの無記名正会員権を有するなどと主張して、東京地方裁判所に対し、ゴルフ会員権存在確認、妨害行為の禁止等を求める訴訟を提起したが(当庁昭和四八年(ワ)第三九九六号、昭和四九年(ワ)第一五三九号事件、《証拠略》。以下「別件訴訟」という。)、昭和五二年一二月二三日、以下の内容の裁判上の和解が成立した(当事者間に争いがない。ただし子細について、《証拠略》。以下「本件和解」という。)。

(一) 被告は、原告に対し、和解金として二四〇〇万円を支払う。

(二) 原告は、本件カントリークラブの法人無記名正会員権三四口について、何らの権利を有しないことを確認する。

(三) 被告は、原告が本件カントリークラブの平日会員権一六口(会員証番号三四九号ないし三六四号、額面一口につき四〇万円、以下「本件会員権」という。)を有することを認める。

(四) 原告による本件会員権に基づく本件ゴルフ場の利用は、次の条項の定めに従う。ただし、各項の実施に関する細目は双方が協議のうえ決定する。

(1) 本件会員権に基づく本件ゴルフ場の利用者は、原告と入会契約を結んだローヤル会員中より、前記一六口の口数の範囲内(土曜日は二分の一)で原告が指定した者に限定する。

(2) 原告の指定するローヤル会員が右口数に達しない時は、ローヤル会員はビジターを同伴することができる。

(3) 被告はローヤル会員のゴルフ場利用の時間帯を原告の希望する時間帯に設定するものとする。

(4) ローヤル会員のグリーンフィーは、本件カントリークラブ所定のビジターフィーの二分の一とする。ローヤル会員の支払つた右グリーンフィーと本件カントリークラブ所定のメンバーフィーとの差額は、原告のあつせん手数料として原告がこれを取得する。

(5) 原告の年間費は本件カントリークラブの平日会員の年間費と同額とする。

(6) 本件会員権による本件ゴルフ場施設の利用は昭和五三年一月一〇日からとする。

3  被告のスタート組数(通常、一組に三ないし四名)は一コースあて二五組であり(六分間隔)、一八ホール当時は合計五〇組、二七ホールとなつた現在は七五組である。したがつて、原告は、現在右七五組中四組(土曜日は二組)につき、ゴルフ場利用に関する優先的取扱い(以下「本件優先権」という。)を受けていることになる。

4  本件和解において、本件優先権に関する有効期間の定めや解約条項の定めはない。

5  被告は、原告に対し、平成元年一二月六日到達の内容証明郵便により、本件和解による合意のうち、本件優先権について、六ヵ月間の告知期間を定めて解約する旨の意思表示をした(当事者間に争いがない。以下「本件解約一」という。)。

6  被告は、原告に対し、平成二年一二月一三日及び一五日各到達の内容証明郵便により、原告の債務不履行を理由として、本件和解による合意のうち、本件優先権について、解除する旨の意思表示をした(当事者間に争いがない。以下「本件解除」という。)

7  被告は、原告に対し、平成四年四月一五日の本件第一二回口頭弁論期日において、本件解約一と同様の理由により、同様の部分について、一年間の告知期間を定めて、解約する旨の意思表示をした(当事者間に争いがない。以下「本件解約二」という。)。

8  被告は、原告に対し、ローヤル法人無記名会員中の当該法人に所属しない者(無資格者)に対しては、ゴルフ場の予約受付を拒否する旨通告している。

三  争点

1  本件和解条項のローヤル会員中に法人無記名会員が含まれるか。仮に含まれるとして法人無記名会員の利用できる者の範囲は、当該法人所属の者に限定され右以外の第三者を含まないのか、それとも利用者の範囲には限定がなく、法人の所属員以外の第三者も含まれるのか。原告に本件和解に違反した債務不履行があつたのか(本件解除の解除原因の存否)。

(被告の主張)

(一) 本件和解に基づき、本件ゴルフ場でプレーをし得るのはローヤル会員であるが、法人無記名会員はもともと本件和解当時存在しなかつたし、本件和解条項のローヤル会員中には法人無記名会員が含まれていない。むしろ、本件和解は、ローヤル法人無記名会員の存在を否定する旨を合意したのであつた。

したがつて、原告のローヤル法人無記名会員は、本件和解上、本件ゴルフ場においてプレーする権利はなく、仮にプレーできるとしてもビジターフィー(非会員料金)を支払うべきである。

(二) 仮に法人無記名会員が含まれるとしても、法人無記名会員の利用者は当該法人所属の者に限定され、右以外の第三者を含まない。

(三) ところが、原告は、ローヤル法人無記名会員につき、法人無記名会員証に個人名が特定されていないことを奇貨として、過去数年間にわたり、一か月約四〇名、年間約五〇〇名以上の法人会員の資格のない者(無資格者)を当該法人の所属者のごとく法人会員と偽つて、被告にローヤル法人会員の範囲内の有資格者であると誤信させ、本件ゴルフ場においてプレーをさせた。

本来右無資格者は、本件和解上、本件ゴルフ場においてプレーする権利はなく、仮にプレーできるとしてもビジターフィー(非会員料金)を支払うべきであるところ、原告が右のとおりローヤル会員として低料金でプレーさせることにより、原告は、被告に対し、その差額相当の損害を与えている。原告には、不正使用をさせないように管理する義務があるが、原告自らこれを怠つた過失があるから、債務不履行の責任を負う。

(原告の反論)

(一) 被告の右主張はすべて争う。

(二) 本件和解条項上、ローヤル会員と原告との関係を定めた条項はない。本件和解条項上は、ローヤル法人無記名会員の存在を認めたことも否定したこともなく、その点についての合意はないから、ローヤル会員の人数、種類、資格の範囲については原・被告間に何らの合意もなく、全くの原告の自由裁量による内部問題である。従来も、ローヤル法人無記名会員は同会員の身分証明書さえ持参提示すれば、資格の有無は問題とされずプレーできた。被告は、従来から、ローヤル会員中に、法人無記名会員のいること、同会員の場合は、当該法人の指定する者は誰でもプレーできることを当然知つていたしこれを容認してきた。

したがつて、ローヤル会員には法人無記名会員は含まれるし、その範囲には限定がなく、法人の所属員以外の第三者も含まれる。原告には、本件和解条項に違反した債務不履行はない。

2  本件和解によつて設定された本件ゴルフ場を優先的に使用できるという継続的利用契約(以下「本件継続契約」という。)を、被告側の一方的な解約の告知により終了させることができるか(本件解約一及び二の効力)。

(被告の主張)

(一) 本件解約一により、本件優先権は右告知期間満了の日である平成二年六月六日の経過によつて消滅した。

(二) 仮に(一)が認められないとしても、

本件解除は、一面で重大事由(やむことを得ない事由)を解約原因とする即時解除の意思表示とみることもできるから、本件優先権は前記平成二年一二月一五日に消滅した。

(三) 仮に(二)が認められないとしても、

本件解約二により、本件優先権は右告知期間満了の日である平成五年四月一五日の経過によつて消滅する。

(四) 右各解約には、現段階においては、以下のとおり、本件契約を存続し難いやむを得ない事由がある。

すなわち、本件優先権はローヤル会員に対して優先権を設定するものであるが、ゴルフ人口が増大するにつれ、本件優先権の存在により被告ゴルフ場の予約混雑は増大し、他の会員のプレーの円滑化を妨げており、今後とも原告に本件優先権を認めると被告の他の会員との調和、秩序の維持や親睦性が阻害されかねない。被告は、これまで一三年間にわたり本件優先権を保持してきたが、今後とも継続を強制することは被告に酷である。しかも、前記のとおり原告には、無資格者をプレーさせて被告に年間約八〇〇万円の営業損害を与えており、被告との信頼関係を破壊する行為があつた。他方、本件解約によつても、原告が他の契約ゴルフ場に振り分けることによりこれを補充し得るから、原告に生ずる損失は微々たるものである。

(五) さらに、被告は、右各解約の意思表示を補完するものとして、損失の一部を填補するために、本件口頭弁論終結の日である平成四年九月二五日から本件和解成立後一八年目の日である平成七年一二月二二日(予備的に本件和解成立後二〇年目の日である平成九年一二月二二日)までの間、一か年八〇〇万円の割合による金員を支払う用意がある。

(六) したがつて、本件解約の告知は有効というべきである。

(原告の反論)

(一) 被告の主張は全て争う。

本件和解条項上、原告が本件会員権を他に譲渡した場合は本件優先権が消滅する旨の定めはあるが、右以外に優先権の存続期間や優先権の解約条項の定めはないから、本件会員権の他への譲渡以外は本件優先権が消滅しない旨の合意があつたものと解すべきである。本件では原告には何らの帰責事由はなく、自己の一方的都合からの一方的解約は許されない。

(二) 原告は、本件優先権に基づいて営業しているものであるが、本件解約により原告は営業上の存立基盤を失い、重大な影響を被ることになる。これは、金銭的賠償等によりカバーすることができるものではない。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一)  日本信用販売株式会社(以下「日本信販」という。)は、被告(当時の商号は東松山開発興業株式会社)との間で、昭和三八年一一月一一日、以下の内容のゴルフ場利用契約を締結した。

(1) 日本信販は、被告に対し、日本信販のNRGA会員が被告のゴルフ場施設を利用する保証金として金一〇〇〇万円を寄託する。

(2) 日本信販のNRGA会員は、被告のゴルフ場施設利用に関して、被告の正会員に準じた取扱いを受ける。

(3) 日本信販のNRGA会員は、個人記名会員及び法人無記名会員とし、日本信販発行の会員証を被告に提示したときは被告の会員と同様にゴルフ場施設利用ができる。

なお、右契約は、日本信販が本件ゴルフ場の会員権者となるものではなく、会員権を前提としない単なるゴルフ場利用契約であつた。

日本信販は、被告との間で、昭和三九年一〇月までに、右ゴルフ場施設利用契約を合意解除し、改めて両者間で、日本信販が本件ゴルフクラブの法人無記名会員権三四口(入会金一口当たり金八〇万円)を取得する入会契約を締結した。

日本信販が取得した法人無記名会員権に基づく本件ゴルフ場の利用は、日本信販が斡旋したゴルフ愛好者なら誰でも可能とされ、事実上もそのように利用されてきた。

そして、日本信販は、自己のNRGA会員を本件ゴルフ場にあつせんしてプレーをさせ、その利用料金のうち一定額を取得してきた。

(三)  日本信販は、原告に対し、昭和四四年五月、前記会員権三四口及び同会員権に付帯する一切の契約上の地位を譲渡した。原告は、その後は日本信販当時と同様に、同会員権に基づいて、原告と入会契約を締結したローヤル会員(法人会員を含む)を本件ゴルフ場にあつせんしてプレーをさせ、その利用料金のうち一定額を取得してきたが被告からは何らの異議も述べられることはなかつた。

(四)  ところが、昭和四七年九月ころから、被告は、原告に対し、法人無記名会員を記名式に変更するよう要求し、それに応じない場合は原告のローヤル会員の本件ゴルフ場におけるプレーを拒否する旨通告した。

(五)  そこで、原告は、被告に対し、別件訴訟を提起したが、前記のとおり本件和解が成立した。

(六)  原告は、当初被告が日本信販との契約上認めていた日本信販のNRGA会員中の法人無記名会員を引き継ぎ、以後右会員を原告のローヤル法人無記名会員として被告の本件ゴルフ場でプレーさせていたのが始まりであり、本件和解当時において、原告のローヤル会員には、法人無記名会員がいた。

(七)  本件和解条項及び原告と被告との間で昭和五二年一二月二七日に締結した業務細則においても、原告のローヤル会員の人数、種類、範囲等について明確な定めはない。

(八)  本件和解が成立した後、本件ゴルフ場の利用に関して、原告と被告との間では次のような運用がされてきた。

ローヤル法人無記名会員が本件ゴルフ場を利用する場合、その会員から原告に対し、会社名、会員番号、電話番号、プレーの日、利用者の氏名を告げて予約の申込みがされ(その際、右利用者が法人所属の者であるか否かについては、告げられることも、聞くこともない。)、これに基づいて、原告は、被告のゴルフ場係に対し、原告名、利用月日、利用者氏名を告げるのみであり、その際、右利用者が当該法人所属の者であるか否かについては、告げることも、聞かれることもなかつた。

右のとおり予約をした利用者は、利用の当日、原告発行の身分証明書を本件ゴルフ場に持参し、これをフロント係に提示し、かつゴルフ場指定のスタート組合せ票に、氏名、会員番号を記載する手続を済ませることにより、利用者はプレーすることができ、そこでも、その利用者が、当該法人所属の者であるか否かについては、告げることも、聞かれることもなかつた。

(九)  このような運用に対し、被告が原告に対し、法人会員の本件ゴルフ場の利用について、原告が指定することができるローヤル会員の範囲は、原告と入会契約を結んだ法人の所属員に限定されるという前提に基づき、その趣旨を明示的に通告したのは、平成二年一二月ころが初めてであり、少なくとも昭和四四年以降その時点まで右の点が問題とされることはなかつた。

(一〇)  ゴルフ会員には、個人会員と法人会員があり、法人会員には、法人記名会員と法人無記名会員がある。法人無記名会員は、法人記名会員とは異なり、会員として権利を行使する者を限定せず、当該法人会員の指定する者は誰でもプレーできるものとするのが一般的考えであり、プレー権者が特定されていないため、他に貸与するなどの不正使用の可能性が大きく、また会員権の使用に切れ間がないことが多いから、ゴルフクラブの混雑の原因となりやすい。しかも、プレー権者の資格の審査がないのでゴルフクラブの品位や評価を落とすことがある。そのため、ゴルフ場全体としても、法人無記名会員を消滅させる方向にあり、現在では法人無記名会員の存在は極めて稀になつてきている。

(一一)  ローヤル会員としての法人無記名会員は、原告が命名した原告の会員であり、一般のゴルフ会員の一種の法人無記名会員とは異なる。ローヤル法人無記名会員は、原告と同会員との間の入会契約に基づき成立するもので、直接ゴルフ会社である被告に対する権利義務の関係には立たない。ローヤル会員は、後記のとおりローヤル法人無記名会員を含め約定の口数の枠内でしかプレーをなし得ないので、その利用が無限定ということにはならない。これに対し、法人無記名会員は、ゴルフ会社と直接の関係に立つし、人数的制限はなく利用し得るものである。

(一二)  原告と入会契約をしたローヤル会員は、ビジターを同伴できるところ、ローヤル法人無記名会員としてプレーする場合には、原告に一定の収入が得られるが、ビジターとしてプレーする場合には、原告に一定の収入が得られないことになる。

2 以上の認定事実を総合すると、まず、本件和解当時において、既に原告のローヤル会員には、法人無記名会員がいたことと、本件和解において、少なくともその条項上、原告のローヤル会員の資格について、法人無記名会員が含まれるか、仮に含まれるとして、法人無記名会員の利用者の範囲が当該法人所属の者に限定されるか否かについて、明確な定めはなされていなかつたことが指摘できる。

そして、被告は、別件訴訟において、原告の本件ゴルフ場の法人無記名会員権をなくすことに主眼を置いており、これと同じ性質を持つローヤル法人無記名会員についてもそれをなくすことが被告の意向に沿うものであつたと思われるし、本件和解条項の前記記載(前記争いのない事実等2(四)(1))や、ローヤル法人無記名会員につき、当該法人の所属員以外の第三者も含まれるとすると、ビジターとして利用する場合が極めて限定される結果となることからすると、被告の主張のとおり本件和解による合意は、原告が当該法人の所属員以外の第三者は指定することを想定していなかつたとの解釈がなり立つ余地があることは否定できない。

しかしながら、既に日本信販との契約関係において、NRGA会員の中には法人無記名会員がおり、更に、本件和解成立以前の原告のローヤル会員にも、法人無記名会員がいたにもかかわらず、本件和解はローヤル会員について明確にこれを排除する内容の規定をしていないこと、原告は、本件和解の前後を通じて、ローヤル法人無記名会員の入会契約をしていること、被告も、原告のローヤル会員の中に法人無記名会員がいることを知りながら、少なくとも本件和解成立後から平成二年一二月までその資格について問題とすることなく原告の主張するとおりの利用を継続させてきたことなどからすると、被告は、原告のローヤル会員に法人無記名会員が含まれること、及び右法人無記名会員の利用者についても、必ずしも当該法人所属の者に限定されず、右以外の第三者が含まれることにつき、黙示的にせよ容認していたものと推認される。

その他、原告が、ことさら被告を欺罔してローヤル会員に不正な手段で本件ゴルフ場を使用させて被告に営業上の損害を被らせたことを認めるに足りる証拠はない。

よつて、その余の点を判断するまでもなく、原告には、何らの債務不履行はなく、被告がした本件解除の意思表示は、無効であるというべきである。

二  争点2について

1  本件和解が原・被告間のゴルフ場の利用に関する継続的契約であること、本件優先権の存続期間や解約条項の定めがないことは当事者間に争いがない。ところで、期限の定めのない継続的契約において、当事者の一方の解約により当然に継続的契約が終了するものと解すべきではなく、右解約が有効であり、継続的契約が終了するためには、契約締結の経緯、その性質、契約締結時から解約申入れまでの期間、終了によつて受ける当事者の利害得失(被解約者の損害の担保等)等、事案の特質を総合考慮して、継続的契約に契約の存続を著しく困難とするやむを得ない事由があることを要するものと解するのが相当である。

そこで、本件解約一及び二にやむを得ない事由があるかどうかを検討する。

2  被告側の事情

《証拠略》によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 被告は、株主会員制組織のゴルフクラブ(株主会員約一六〇〇人、平日会員約二〇〇人、なお、平成元年三月からは約一〇〇人の預託金制正会員を追加した。)であり、その運営は株主正会員から選出された理事を構成員とするクラブの理事会の決議に基づいて会社である被告が行つており、実質的には、株主である会員を中心として、会員が自ら運営するゴルフクラブ会社として、親睦性に特に重点が置かれているという特徴がある。非会員と会員の利用割合は、被告では、全国平均と比べてはるかに会員による利用率が高い。

(二) ゴルフ場における一日のプレー可能な人員には限度があり、会員は順番にプレーの予約をすることになるが、被告のゴルフ場では、ゴルフ人口の増加により、昭和五五、五六年ころから、会員のスタートの予約の確保が困難となり始めたため、会員の中から、原告の優先権に対する不満が次第に高まつてきた。

そこで、被告は、スタートの予約方法を種々工夫し、予約期間を設けたり電話による予約方法を採用してきたが有効な解決には至らなかつた。

さらに、被告は、<1>一日の予約時間を午前一一時まで延長したり、<2>昭和六二年八月には約四三億円をかけてゴルフ場を九ホール増設して混雑の防止に務めて来たりした。しかし、<1>の方法は、プレーの進行が渋滞し、被告のゴルフ場の悪評を買うことになつたし、<2>の方法は、混雑解消の効果はなかつた。そこで、被告の会員中から、原告の優先権に対する不平や非難の声がますます高まつてきた。

(三) 現時点では、本件優先権の存在が被告にとつて重荷となつてきている。平成二年六月二六日には、被告の理事会並びに株主総会及び会員総会において、原告が本件ゴルフ場を優先的に使用することを許さない旨の決議をした。

(四) 本件優先権がない場合には、年間当たり高額の売上の増加が見込まれるが(優先権に相当する数のビジター料金が得られるとすると、年間七〇〇〇万円近くの売上げ増加となる。)、結果として、本件優先権のため、被告は、これまでこれが得られなかつたことになる。

(五) 被告は、解約事由を補完し、原告の損失の一部を填補するために、口頭弁論終結の日である平成四年九月二五日から本件和解成立後一八年目の日である平成七年一二月二二日(予備的に本件和解成立後二〇年目の日である平成九年一二月二二日)までの間、一か年八〇〇万円の割合による金員を支払う用意がある旨、弁論で主張している。

3  原告側の事情

他方、《証拠略》によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原・被告間において、昭和五八年七月一九日、本件和解条項のうち、ビジターフィーの料金、戻し金の支払等の業務詳細を改定した。

(二) 本件ゴルフ場二七ホールにおける一日の利用可能人員は、一組四名で計算すると、約三一二名(七六組)なのに対し、ローヤル会員の契約上の利用人員は一六名(四組)、土曜日はその二分の一であり、最も混雑する日曜祝日は、ローヤル会員の利用は認められていない。

また、最近におけるローヤル会員の利用人数の平均実績は、一組四名とした場合、平日一一・二名(二・八組)、土曜六・八名(一・七組)である。

(三) ローヤル法人無記名会員として当該法人所属の者以外の者までプレーできるとした場合にも、もともとローヤル会員としてプレーできるのが、会員一口について一名であるから、ローヤル会員の口数の枠内でかつ自己の保有口数に相当する人数により限定され(更に最大限前記平日一六名、土曜日八名に限られる)、その他の同伴者はすべてビジターとしてのみプレーできるのみである。しかも、法人無記名会員は観念上は当該法人指定の全ての者がプレー可能であるが、事実上は法人の取引先などに限定されているのが実情であるから、ローヤル法人無記名会員のプレーを認めることにより、利用人数が無制限となるとまではいえない。

(四) 平成元年四月一日以降同二年三月末日までのローヤル会員等の本件ゴルフ場利用延べ人員は二〇四〇名(一か月平均一七〇名)であるから、本件解約の結果、ローヤル会員等の本件ゴルフ場利用は従来の十分の一以下となり、しかも右ゴルフ場利用による原告の営業収入は、会社全営業収入の三〇パーセントを占めているから、原告の営業が致命的打撃を受けることになる。

4  以上の認定事実及び前記一1認定の事実を総合すると、被告の本件ゴルフ場においては、ゴルフ人口の増加に伴い、ゴルフ場が混雑してきた結果、本件優先権の存在が他の会員とのプレーの平等を害する結果となり、あるいは本件ゴルフ場の混雑の一因をなしていることもあつて、会員の中から不満が高まりつつあり、その調和を図ることが急務となつてきたことが認められ、被告の本件解約の主張は理解できないものでもない。

しかしながら、本件優先権は裁判上の和解によつて設定されたものであり、原告の本件優先権によるゴルフ場の優先的利用は、右裁判上の和解に基づく正当な権利行使であること、もともと本件和解による合意は長期の継続を想定していたものと解せられる上、本件会員権は本件優先権と不可分一体のものであると解せられるから、その一部の解約を容易に認めることは相当でないこと、ゴルフ場予約の混雑は、ゴルフ人口の増加に伴うもので被告特有のものではなく、どのゴルフ場にも共通した現象であるし、非会員(ビジター)の利用割合や会員の数(収容能力との関係で)とも密接に関係する問題であるから、本件ゴルフ場の混雑の原因の全てをローヤル会員の優先的利用の結果であるということはできないこと、将来のゴルフプレー人口の増加や本件優先権の設定による他の会員とのトラブルの発生するおそれがあることは、本件和解当時予測し得たものであること、本件解約により、被告の利益は大幅に増加することになる反面、原告の利益は激減し、営業の存続に決定的に影響しかねないこと、その他原告に特段の帰責事由があることの立証はないこと等の諸事情に照らすと、現時点では、本件解約に契約の存続を著しく困難とするやむことを得ない事由があると認めることはいまだ困難というべきである。また、本件において、金銭の支払による解約理由の補完は相当でない。

よつて、本件解約一及び二の意思表示は、無効というべきである。

さらに、被告は、本件解約の有効性を強く主張し、本件優先権を前提とするローヤル会員の利用は認めない旨の意思を表明しているから、原告が、主文のとおりの裁判を求める利益がある。

第四  結論

よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草野芳郎 裁判官 中本敏嗣 裁判官 左近司映子)

《当事者》

原 告 株式会社ローヤルゴルフクラブ

右代表者代表取締役 手塚 寛

右訴訟代理人弁護士 真壁重治 同 岡田正美 同 斉藤一彦

被 告 株式会社東松山カントリークラブ

右代表者代表取締役 今野 豊

右訴訟代理人弁護士 後藤徳司 同 日浅伸廣 同 荒木秀治

右後藤徳司及び日浅伸廣訴訟副代理人弁護士 森本精一

被告補助参加人 西村忠雄 <ほか二二名>

右補助参加人ら訴訟代理人弁護士 大内猛彦 同 荒山国雄

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